はじめての涙 プーケット 物乞い 死体博物館 犯罪専門誌 電脳市場 トゥクトゥク ソイカウボーイ 拳銃 | |||||||||
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- プーケット - 今でこそ、毎回バンコクを拠点に行動する身となった私だが、一時期は毎年プーケットで少ない有給休暇を過ごしていた。 プーケットはバンコクに比べて治安は良いほうかもしれない。 ただ旅行者の数が多いので、物価も高ければ、ふっかけやぼったくりも多い。 自称、芸術家の私は前々から狙っていた土産物屋のオブジェがあった。 それはブロンズで出来ている(ように見えた)直径60cm位の壁掛けで、人の顔をモチーフにしたものだったが、俗にいう人目惚れした、しろものだった。 パトンビーチに面しているその店に、最初に訪れたときは子供が店番をしていた。 私がオブジェを指差し値段を尋ねたところ、その子供は値札を確認し、「900バーツ(約2700円)」と答えた。 私は子供に優しく微笑んで値引きをうながした。 その子供はちょっとはにかんでから、奥にいる店主と思われるお婆ちゃんを連れてきた。 「ノーディスカウント。」 ニコリともせずに私に言い放ったその時、私の中の本能が目覚めた。 「じゃぁちょっと現物を見せて下さい。」と伝えると、その店主は子供にアゴで指図をし、 頭上からそのオブジェを外させて見せてくれた。悪いことしたかな?と少し思った。 手にとった私は愕然とした。 ブロンズだと思っていたそれは、とても軽く、おそらく紙粘土で作ったものにペイントを施したもので、ほこりがかかっていたために重厚感が増して見えたものだった。 「これで900バーツは高いでしょう?」 ※ちなみにタイの物価を日本と比較して考えると約10の1、単純計算で9000円の感覚になる。 私がそう言うと、なんとその店主は平然とした顔つきで 「900?違うわい。1800バーツじゃ。」 と言ってきた。は???だってさっきその子供が… 私はオブジェに付いていた値札を見せ、さっきは900バーツと言われたことを主張した。 しかしその店主は聞き耳を持たず、「本当は2000バーツだが、1800にしてやる。」と言うのだった。 いくら慈悲深い私でも、そのときばかりは仏の心になりきれなかった。 結局、何も買わずにその店をあとにし、そのまま日本へ帰ってきたのだが、 帰国後もあのオブジェが頭から離れず、とりつかれたように半年後、またタイへ行ったのだった。 パトンへ着いたその日、私は意を決していた。 「ぼったくられても構わない。どうしてもあれが欲しい!」 同じ店へ出向いてみると、今回はあのときの子供はいなかった。 しかし、あのババァ…いや、お婆ちゃんが相変わらず無愛想な顔で、奥から出てきた。 私は初めての客を装い、「あれ、いくらですか?」と物静かに尋ねた。 「3000バーツじゃよ。これ以上値下げはしないよ。買うか?」 おい、なんで半年で1000バーツも値上げしてるんだ? 「いらない!そんなのいらない。もう充分だ。くっ。」 私は憤慨しながら、その店を出た。 帰国後、私は一週間かけて自分で作った。紙粘土とアクリル絵の具を使って… 手前味噌ではあるが、あの店で売っていたバッタ物よりずっといい仕上がりだ。と思う。 今、我が家に飾っているそれは、ほこりがかって重厚感を持ち始めている。 最初からそうすりゃ良かったのだ。 |
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