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- トゥクトゥク -

あなたはヤク中のドライバーが運転するトゥクトゥクに乗ったことがあるだろうか。

それはルンピニー公園のナイトバザールの帰り道だった。

観光客を待っている運転手にロクな奴はいないと知りつつも、「60バーツでいいよ。」の一声に振り向いてしまったのが運のツキだった。

バス停まで歩くのも億劫だったし、タクシーに乗るよりも、断然安くあがるではないか…

「60バーツなら乗ってもいいよ。」

と交渉成立。かと思いきや、そのオヤジはただの手配師にすぎなかった。

「この車に乗りな。」と言われて乗った後に、20歳くらいの若い兄ちゃんが運転席に乗り込んできた。

「ヒャッホ−!出発するぜぇ〜。」妙に明るく、ハイテンションだった。

一瞬不安がよぎったが、その時はもう2車線の道路の真ん中を突進していた。

「安全運転でね!あなたの運転、危険だよ。」

とミラー越しに言ってみたが、その兄ちゃんは妙なタイ語を話す日本人に一瞬戸惑ったあと、暑苦しい笑顔をふりまいて、ますますスピードを上げるのだった。

大声でなんだか意味不明なことを言っているが、こちらは運転が怖くて気が気でない。

カーブに差しかかったとき、そいつはポケットから何かを取り出した。

学校の体育の授業で毛深い先生がよく使っている、笛だった。

ピーッ!ピーッ!と馬鹿でかい音を吹きながら、減速することもしないで曲がってしまった。

ポールにつかまっていなかったら、道路の真ん中に振り落とされていたところだ。

「やめろ!笛なんか吹かなくていいから、おとなしく運転してくれ!」

と日本語で言ってみたが、「はぃぃ〜?」と聞きかえされたその顔は、少年の笑顔というよりは薬物中毒患者の顔だった。そう、イッちゃっているのだ。

そうだ、こいつ薬やってるんだ…

気がついてもあとの祭り、住宅地の細い道を70キロくらいのスピードで走り抜けていく。

ジェットコースターだと思えばいいさ、とは思わない。

猫や犬、いや子供が出てきたら間違いなく轢き殺すだろう…

「止めてくれー。どこでもいいから止めてくれー。」

叫べば叫ぶほど、そいつが興奮して笛を吹くので、うるさくて聞こえやしない。

そこから宿泊先のホテルまでは、あと半分の距離があったが命のほうが大事である。

よし、とりあえず早く降りよう。と、すぐ近くの繁華街の名を大声で告げてみた。

「あぁ?シーロムに行く〜?あと100バーツだよ〜。ヒャッヒャッヒャ。」

ブルータス、お前もか…

「さっきのオヤジが60バーツと言ったから乗ったんだ。100バーツなんて持ってないよ。」と私は試しに言って財布を下に向け、振ってみせた。

すると急に鬼のような形相で180度ふりむいた。

「はい!前見て前見て。わかったからとにかくシーロムに行って。」

こんな人通りの少ないところで揉め事は危険である。繁華街まで行けば、刺されることも無いだろう。

その後もそいつは笛を吹き続けながら、減速せずに突っ走ってシーロムに着いた。

その間に私は財布から紙幣だけを抜き取り、小銭だけ残していた。

「ごめんねぇ、本当にこれしかないんです。」

と財布の中身の70バーツをすべて渡すと、諦めた顔で受け取り、すばやくひき返していった。

全身からどっと汗が吹き出てきた。疲れた。

近くのコンビニでジュースを買って一息ついた。

「私は奴に勝ったのだろうか。いや、やっぱり負けたに違いない。」

そんなことを考えながら、帰途についたのだった。

今でも時々、あのピーッ!という笛の音に悩まされることがある。

フエの鳴く夜は恐ろしい…

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